クラモチユウタ……
セッティング……
オーケー!
機械の箱から再生された合図で幕を開けたパフォーマンスは、自身のアコースティックギターに加え、サンプラーにジャンベという三人編成で30分間のだらしない奇跡を起こした。
スベりにいったつもりが中途半端に良い反応を頂戴してしまい、変な気持ちになった。
ちなみに衣装は全員が黒シャツ・黒パンツ・黒ブーツ。
そしてウェリントン。
……また会えるよね?
〜私のココロは愛餓男〜
クラモチユウタ……
セッティング……
オーケー!
機械の箱から再生された合図で幕を開けたパフォーマンスは、自身のアコースティックギターに加え、サンプラーにジャンベという三人編成で30分間のだらしない奇跡を起こした。
スベりにいったつもりが中途半端に良い反応を頂戴してしまい、変な気持ちになった。
ちなみに衣装は全員が黒シャツ・黒パンツ・黒ブーツ。
そしてウェリントン。
……また会えるよね?
世田谷線という、三軒茶屋と下高井戸とを繋ぐ二両編成の可愛い電車です。
線路沿いの道には踏切の見える場所があってボクはちょうどそこを歩いています。
すると『カン、カン、カン』と遮断機の降りる音と、『ガタンゴトン』という電車が近づいてくる音が聞こえました。
ボクのいる所から駅までは30メートルくらい、走れば間に合いそうです。
だけど問題がありました。
狭い歩道の先にはおばあちゃんがゆっくりボクと同じ方向に歩いていて、さらにその後ろからはお巡りさんが自転車に乗って向かってきていました。
悪い事は何もしていませんが、走ったら良くない事が起こりそうな未来がその組み合わせから予想できました。
だけど今日はたまたま薄着で家を出てしまい、この電車を逃すと10分くらい駅のホームで真冬の寒さに堪えなければなりません。
……勝負です。
サヨウナラ。
さっきまでの弱気なボク。
ここにシュガーボーイはもういねぇ…
いるのは血に餓えた一匹の狼だ!
両手をジャケットに突っ込んで、自慢のブーツの靴音を響かせ、スマートかつスタイリッシュにおばあちゃんの脇を抜け、ウインク一閃。
お巡りさんには「ご苦労様です、ポリスメン!」と、快活に敬礼しその労をねぎらう。
そして口笛をヒューと鳴らしてクールに電車内に滑り込む…
ハズだった。
事もあろうにダッシュの一歩目、自慢のブーツの爪先がアスファルトに引っ掛かった。
しかもダッシュの勢いは死なず、猛烈に前傾姿勢になってしまった。
あっ…もうダメ…
いや!
オレはウルフ、バランスを取ればまだあの頃に戻れる…
あっ…
両手はポケットの中…
気がつくとアスファルトの上で腕立て伏せを披露している狼。
かけていた眼鏡は頭上に吹き飛び、髪は乱れていた。
倒れた背中に声が掛けられる。
「大丈夫?」
ポリスメンだった。
そそくさと起き上がり「大丈夫です」と自嘲気味に呟く。
倒れた場所にはボタンが2つ転がっていた。
手のひらに付いた砂利を祓うと薄く血が滲んでいて泣きたくなった。
手負いの狼がホームに立つと電車はもう行ってしまったようだった。
寒い。
当たり前だった。
最初から薄着の上、ジャケットにはボタンが最下段の1つしか付いていず、ほとんど全開なのだから。
ポケットの中で痺れた指先が、本体からちぎれ飛んだ部品を弄ぶ。
その時のボタン、送ります。
母さん、また春に会いましょう。
アォーーーーン
黄昏時、小田急線は傾いた陽光を浴びながら新宿を目指していた。
今回の事件は、電車がその乗降口に下北沢からの乗客を載せ終え、出発に体を軋ませた直後に起こった。
黒い服を着た茶髪の女(以降ブラックと呼ぶ)は白い服を着た黒髪の女(以降ホワイトと呼ぶ)に比べ、遊び慣れた感じで、歳は二人共30の手前くらいに見える。
一見清楚なイメージのホワイトとは、もちろん知り合いではない。
本を両手で開いているホワイトに対し、ブラックの左手は忙しく携帯電話に文字を打ち込んでいて、右手はというとファーストフードのcoffeeを蓋を付けずに緩く握っていた。
悲劇は突然、さも当然のように起きた。
…ブッカカリーノ。
ホワイトのホワイトコートにブッカカリーノ。
及びそのお膝元にブッカカリーノ。
ブラックはブラックcoffeeをブッカケーノ。
発車のグラビティでブッカケーノ。
全てを忘れてブッカケーノ。
地震・雷・火事・BUKKA'K'NO!
…適切に応急処置を施すブラック、嫌な態度を少しも見せないホワイト。
約3分間の短いが濃厚なやりとりの後、二人は終着駅まで他人に戻る。
新宿駅ホームへの扉が開いて訪れる別れの時。
立ち上がり、配慮が行き届いた少ない言葉と共にクリーニング代金を差し出すブラックRX。
少し微笑んでから手のひらを現金に向け、軽く首を左右に振るシャドームーン。
事件中微動だにしなかったくせに二人を見て何故か興奮しているオレ。
そして三人は眠らない魔都に吸い込まれた。
それぞれの熱い想いを胸に…
それぞれの場所を探して…
そんな出来事がオレの心にヒッカカリーノ。